TAKAMIYA ACTION

2022年度における事業環境

タカミヤグループが関連する建設業界は、前年度に引き続き2022年度も新型コロナウイルス感染症の影響の残った年となりました。原材料価格の高騰や為替相場の変動、人手不足を原因とする着工延期が生じたものの、激甚化する災害に向けた各種インフラや建築物の強化・保守という課題からくる民間の改修工事自体もあり、首都圏を中心に堅調に推移しました。人手不足は建設業界に限らず以前から問題視されていたところですが、明確に課題として顕在化した年であったといえるでしょう。また、海外においては長期化するロシア・ウクライナ問題や金融不安などがありますが、当社グループが事業を展開しているフィリピンでは長期化していたロックダウンが解除され、JICA関連のインフラ案件が動き出すなど、緩やかに回復の兆しも見えてきました。
2022年度は、残念ながら業績を十分に伸ばすことができませんでした。利益面では概ね計画どおりでしたが、売上高では業績予想を達成できていません。販売事業においては原材料価格の高騰に伴い実施した価格改定による買い控えが影響し、減収減益となりました。一方でレンタル事業と海外事業が増収増益となりました。レンタル事業に関しては買い控えによるレンタル依存が高まり、パンデミック以降最高の稼働率を記録、海外事業はフィリピンのロックダウンこそありましたが、韓国では仮設のレンタル販売が順調に推移し、ベトナムでは日本向けの製造を計画通り行うことができました。パンデミックにより直近2年間は、建設業界全体の動きが鈍化しました。今も尚、不透明な状況は続きますが、事業環境の回復は着実に進んでいます。

 

ビジネス転換を実現するタカミヤプラットフォーム

 

当社グループは、2021年5月に「トランスフォームにより新たな価値を創造し、お客様のパートナー企業となることで、持続的な成長を目指す。」という経営ビジョンを掲げ、新たな中期経営計画を発表しました。この中期経営計画を推し進めるのが、タカミヤプラットフォームです。タカミヤプラットフォームとは当社がフロービジネスからストックビジネスへ転換するための重要な取り組みです。外部環境の変化に強く、安定的に収益を上げることができる体制を構築します。次世代足場「Iqシステム」を中心とした仮設機材(ハード)に、DXを活用したデジタルサービス(ソフト)を組み合わせて、これまでにはない付加価値を提供します。当社のIqシステムをはじめとする仮設機材はハード面で他の製品と比較しても優位性があり、これまではその優位性が製品の普及を進めると考えていました。しかし、それだけでは圧倒的にシェアを獲得することができず、他社が追随して開発した次世代足場や従来品との価格競争に巻き込まれてしまいます。ハードの優位性だけでは差別化を図ることができません。そこで当社は圧倒的に利便性と安全性が高いサービス(ソフト)を付加価値として提供することで他社との差別化を図ります。このプラットフォームを活用することで、お客様は事業のエリア、領域、規模を拡大し、収益を改善することができます。お客様からすればプラットフォームが仮設機材ビジネスにおいて当たり前のインフラとなり、当社はストックビジネスへと転換、これまでのフロービジネスを行うレンタル会社やメーカーの姿から、プラットフォーム企業へと変貌します。 

「プラットフォーム元年」で得た手応えと課題

当社はプラットフォーム展開の初年度として、2022年度を「プラットフォーム元年」と定めました。そしてプラットフォーム企業への変革が着実に進んだ1年でした。
関西エリアを中心に、当社グループのプラットフォーム構築に向けたトランスフォームの取り組みがお客様に浸透し、サービスの積極的な開発も順調に進んでいます。独自に開発したデジタルツールの「OPERA」や「Iq‐Bid」はスマホなどで、どこからでも利用でき、「RABOT」も自社ノウハウのように、自由に利用することができます。さらに「Takamiya Lab. West」の機能強化など、顧客の利便性を最大限高めるコンテンツを拡充しています。当社グループがプラットフォームの基盤構築をしていることが十分にお客様に伝わったという手応えも得ることができました。インターネットやネット通販も、最初は利用を不安視する方も多くいましたが、いまでは生活になくてはならないツールとなって受け入れられています。プラットフォーム、そして、これらのコンテンツが当たり前となり、日常に溶け込む日もそう遠くありません。プラットフォーム関連の売上も前年度の6億円から16億円まで増加し、ユーザー数も着実に増加しています。これから、ユーザー増加のスピードは加速していくでしょう。また、プラットフォームを安心してご利用いただけるようにするには、様々なデータを可視化し、エビデンスとして提示する必要があります。ユーザーはプラットフォーム利用状況を確認できるため、その利便性や収益性を実感することができます。また、当社の取り組みをユーザーに可視化することで、安心を提供します。社内でも可視化された情報をプラットフォームの機能拡大に活用するだけではなく、AIなどを導入することでそれらの取り組みを加速させます。
また、プラットフォーム事業を推進していく上で、課題をより明確にするために、2023年7月にタカミヤのマテリアリティ(重要課題)を策定しました。自社の取組を多角的に捉えるため、外部有識者も含めた様々なステークホルダーの皆さまからご意見を募り、社内での議論も経て8項目に焦点を絞りました。マテリアリティ策定を進める中でステークホルダーの皆様からは、プラットフォーム事業の後押しとなるような意見や、当社に対する期待も多くいただくことができました。タカミヤという企業としての成長とともに、広く社会への価値提供、そしてそれを支える人材の育成や環境への配慮に一層意識をもって取り組んでいきます。  

中期経営計画の最終年度に向けて

進行年度である2023年度は中期経営計画の最終年度になります。事業環境の回復が遅れたことで、この2年間は思うような進捗ではありませんでした。そのため、当初の業績計画の達成は困難と判断し、利益目標として掲げていた連結営業利益50億円も38億円と見直す結果になりました。本計画の基本戦略ごとの進捗を振り返ると、主軸である「Iqシステム」を中心としたハードとソフトを融合したサービスの開発、つまりプラットフォームの構築は先述した通り、順調に進みました。
維持補修・再インフラ向け製品の強化については、高度経済成長期に建設した道路橋、トンネル、河川管理施設や下水道管、港湾岸壁など、老朽化した社会インフラの維持・補修本格化に備え、当社グループでも、この潮流に対応した製品開発を進めるとともに、お客様の利便性を追求したサービス提供を推進しています。これらの維持・補修、再インフラ向けのメイン製品として開発した吊り棚足場は、厳しい環境下においても、お客様から高い評価を得ています。そのほか、仮設以外の事業育成として、アグリ事業とPV事業を推進しています。これらは、ESGの側面も持った事業です。
アグリ事業では、パンデミックの影響で補助金が発生しないことや、就労者不足などの理由で栽培用ハウスの販売は想定通りには進んでおりません。しかし、その一方で需要期に備えた準備は進みました。当社製品を用いた「羽生愛菜プロジェクト」がスタートしており、栽培環境、果菜類の収量・品質などのデータ収集を行い、農業従事者が抱えている課題の解決をサポートします。製品だけではなく、栽培ノウハウの提供も行います。また、2022年5月には八女カイセー(株)の株式を取得して子会社化し、九州地区での事業の拡大成長に向けた基盤を整備しました。PV事業は、カーボンニュートラル実現に向け、再生可能エネルギーを導入し、温室効果ガス削減を目指すもので、主力製品は次世代型ソーラーカーポート「POGERO(ポゲロ)」です。こちらも順調に販売を拡大しております。 
最後に、海外事業基盤の再整備です。新型コロナウイルス感染症流行による行動制限の影響が軽微になり、事業基盤整備が順調に進行しています。フィリピン、韓国、ベトナムでは、ほぼ計画どおりの事業活動ができるまでに回復しました。管理体制の整備が進んだことで収益性も改善しております。
策定時から見直しはかけておりますが、中期経営計画の実現は目の前まで来ています。

DXとマネジメントの融合でトランスフォームを完遂する

私は、当社グループのトランスフォームとは、タカミヤそのものを改革することだと考えています。つまり、この中期経営計画の本流であるトランスフォームは、受発注はもちろん、全国のBaseの入出庫、在庫管理、製造部門の生産状況、「Iqシステム」を含めた製品情報などをデジタルネットワークで一元管理するプラットフォーマーへの転身が最終ゴールだからです。
そこで、ウェブサイトや名刺を刷新し、足場の販売・レンタル企業から、プラットフォームを擁するIT企業へとグループ内の意識変革を図りました。これは、コロナ禍を経て、労働環境が変化し、採用したデジタル世代の20代が定着する企業しか未来はないと感じたからです。
当社グループの経営哲学は、「人材が企業力の本質である」です。そこで、トランスフォームを支えるDX(デジタルトランスフォーメーション)を構築する、若い世代の考え方が反映させやすい職場環境づくり、働き方改革に注力しました。残業時間や有給休暇取得率がひと目でわかる「大型サイネージ」を社内に設置し、リフレッシュ休暇などの新たな制度を導入したほか、新時代に合わせたオフィス改革も推進しています。働く場からコミュニケーションの場へ、社員の働きやすさはもとより、生産性を高めるために一人ひとりが働く場所・時間・設備を考え、選択しながら自走できるオープンなワークスペースへとレイアウトを変更し、様々なICTツールも導入。さらに、若い世代に主体性を持って仕事ができるように、インセンティブや目標を導入した評価制度改革にも着手しました。他方、ベテランのマネジメント層にDXを理解させるのは難しい、ということにも気がつきました。そのため、マネジメント層には、彼らが持つマネジメント能力を最大限に発揮し、個々の持つ能力を最大限に活かす、ダイバーシティを重視した経営へと切り替えました。従前から取り組んできた目標管理を設定し、目標達成のための情報を可視化して共有・活用してもらう仕組みにしました。
また、お客様の意識改革も重要なテーマだと考えています。建設業界ではDXやデジタル化に対する取り組みが他の業界と比較して進んでいません。変化を嫌う傾向にあります。アナログで行っていたことをデジタルに切り替えて行くにはお客様自身がメリットを享受できることを理解していただく必要があります。お客様の意識改革にも取り組むことで、当社グループのトランスフォームの完遂を目指していきます。

成長の基盤となるサステナビリティとガバナンス

当社グループが目指すサステナビリティは、トランスフォームを通じて完成したプラットフォームにより、建設業界の無駄を失くし、効率化を図ることです。建設業においても2024年問題への取り組みを進めていく必要があります。労働時間が制約される中、これまでの建設業が続けば対応は難しいでしょう。しかし、当社の次世代足場「Iqシステム」は従来の足場より階高が20センチ高く、190センチあります。作業効率は従来品と比べて格段に上がり、作業者の負担、作業時間を大幅に削減することができます。当社の製品、プラットフォームが様々な効率化を実現します。そして、プラットフォームはお客様を含めた建設業界全体の足場や機材置場などを余剰させないビジネススキームへの転換を進めていきます。プラットフォームを活用することで当社と顧客は足場を共有して使うことができます。稼働率が上がり、デッドストックや余剰在庫も少なく、より効率的な建設現場を実現することにつながるのです。さらに、CO2排出の問題はありますが、大量に出ている足場のスクラップをプラットフォームの活用することで回収し、新たな製品の原材料として、高炉で溶かし再利用するリサイクル活動も容易にできるようになります。すでに、ベトナム工場の増築や各工場のレイアウト変更に着手し、生産管理のためのDXも推進しています。安定的に生産できる最大最適の設備を整備し、原材料の面でも余剰な調達や在庫を持つことを極力抑える体制にしました。前述のTakamiya Lab.における最速入出庫でのトラックの待機時間削減などもCO2排出の側面でも効果を発揮するはずです。事業の効率化を図ることは、ESGの取り組みとしての側面も持つ、アグリ事業やPV事業でも同じ効果を生むと考えています。事業の効率化を図ることで、よりサステナビリティに貢献することができるからです。
ガバナンスについては、2022年6月に監査等委員会設置会社への移行を経て、執行機能と監督機能の分離を推進しています。部長クラスを経営陣サイドに置くことでミドルマネジメントを強化し、取締役などの経営陣を執行機能から監督機能へと移行を進めることで、社内全体のガバナンス強化にも着手しました。また、株主の皆様にとって関心の高い配当政策については、今後も安定した配当を継続して実施する予定です。

ステークホルダーの皆様へ

半世紀の歴史を持つ当社が、プラットフォームを立ち上げてIT企業へと変わっていく。事業内容の軸足も、完全にプラットフォーム事業への移行し、仮設業界のインフラとなることを目指している――。お客様を含めた建設業界の皆様から見ると、とんでもない壮大な夢のように評価されていると思います。この一部を開陳している本レポートを皆様がご覧になられているということを耳にすると、誇らしく感じると同時に、この目標を成し遂げたいと強く望みます。
目標達成に向けて大きな力となってくれる新入社員は、すべてプラットフォームを構築するメンバーとして採用します。これまでのように、足場レンタルの営業や施工管理者、理系学生を集めて研究開発や製造部門の人材を採るというような形態ではなくなります。このようにして、タカミヤ=足場のメーカー、レンタル会社から脱却し、DXを駆使したプラットフォーマーへの転身を図っていきます。
私たちは、社会から高く評価されるプラットフォーマーとなるための準備を中期経営計画の中で進めてきました。それがあったからこそ、現在の企業イメージ、企業の形態、DXの導入、働き方改革や働く環境、オフィス改革などのトランスフォームを実現することができました。また、マテリアリティを策定したことで、私達自信のミッションもより明確化したと認識しています。
しかし、株主・投資家の皆様には、こうした変化や改革をうまく伝えることができていないのではないかと、深く反省しています。これまで以上に様々な情報公開や広報・IR活動を積極的に行い、皆様にきちんと伝えて、理解していただけるようにしていきます。それとともに、より見えやすく、わかりやすく、誰もが理解できるように、タカミヤがプラットフォーマーとして本格的に事業活動を展開していく姿をお見せできるよう、努力を重ねる所存です。そして、今後も皆様のご期待に応えるべく、一層尽力してまいります。

 

 

 

2023年10月
代表取締役会長 兼 社長
髙宮 一雅